酪農分野へもDXの波「牛乳+ビッグデータ 豚+顔認証」

2022年2月7日

IT技術を他の分野に導入してビジネス環境を改善するDXは、すでに様々な分野で大きな成果を発揮しています。
例えば、物流や教育分野がDX化の成功例として紹介されることがあります。

DXの考え方が浸透するとともに導入される分野も多岐に渡り、「ここにもIT化の波が押し寄せているのか」と思うような分野へもDXは用いられています。
その分野のひとつが「酪農」です。

酪農は製造業など、他の業種に比べて労働時間が長いという特徴があります。
製造業の一人あたり平均労働時間が1,800時間を切る中で、酪農は2,200時間を超え、長時間労働の常態化が見て取れるでしょう。
結果として、酪農業に従事する若者が減少し、後継者が不足しているのが現状です。
DXの導入で生産効率を上げることは後継者不足を解消し、日本の酪農を存続させるために必要になります。

本記事では、日本における酪農のDX事例を紹介し、先んじてDX化が進む中国の事例を解説します。
日本の企業でも取り入れられる可能性のある、酪農とIT融合のエッセンスを事例から読み取ってみましょう。

1.酪農にもやってくるDX

離農者の増加と少子高齢化を主原因に、酪農分野でも後継者不足、労働力不足は顕在化しています。
直近で対策を取らなければ、10年、20年後の日本の酪農は技術の継承の面で深刻な事態に陥る可能性も考えられます。

日本では酪農業者を大規模化し、集約的・効率的な酪農を行うことで飼育頭数維持に努めています。
しかし、ここ2~3年で持ち直しの動きを見せているものの、1992年の飼育数をピークに大きく減少してしまっているのが現状です。
酪農分野へIT技術を活用することは状況を打開するための一手と言えるでしょう。

実は、日本でもIT技術であるクラウドシステムを酪農に導入した事例が存在します。
北海道帯広市に本社を構える「株式会社ファームノート」はクラウド牛群管理システム「Farmnote」を提供しています。
完全自動化された搾乳機や加速度センサーを搭載したウェアラブルデバイスなどで牛の行動データを取り続け、AIを活用して生産支援を行うものです。
酪農従事者1人1時間あたりの平均的な生乳生産量は150kgですが、ファームノートはこれを3倍の450kgに引き上げることを目標にしています。

日本でもDXが進行し、酪農の生産性改善が期待される事例といえるでしょう。

2.牛乳生産に「ビッグデータ」

ここからは様々な分野でDXが先行する中国の事例を2つ紹介します。
1つ目は中国の最大手ECサイト、アリババグループと業務提携を結んでいる「蒙牛乳業」の事例です。

蒙牛乳業はアリババグループの技術を活用し、牧場内、配送の2つの分野でDX化への取り組みを行っています。
800の牧場と100万頭の牛を飼育する蒙牛乳業では、その規模のため乳牛の健康管理が課題となっていました。
この課題に対して、全ての牛舎に無線ネットワークを配備し複数のウェアラブルデバイスを乳牛に装備、下記の様々な情報を収集しています。

・牛の活動量計測
・生理状況
・餌の量
・牛乳生産量

結果として、体調不良の早期発見、発情期の正確な予測などに成功し、生産量5%向上、生産コスト9%減少を達成しています。
取得したデータは今後も積み重ねられていくため、解析を経て更に効率化が図られるでしょう。

配送についてもDXにより課題の解決が図られています。
牛乳は生鮮食品なので、適切な時間・場所の配達が求められます。
しかし、牧場で生産される牛乳の量は毎日変化するうえ、スーパーなどからの発注量も一定ではありません。

そこで、各牧場の生産量、配送先の5,000を超える店舗の在庫状況、競合ブランドの動向やイベントまでを一元管理し分析を行っています。
このようにプロセスを一元管理することにより、効率的な生乳の分配が可能になったうえ、担当職員の負担軽減にも寄与しています。

参考:IoT×クラウドで酪農DXを実現した「蒙牛乳業」の事例
https://www.softbank.jp/biz/future_stride/entry/techblog/sbc/china/20210726/

3.豚の生育に「顔認証」

次に畜産業になりますが、ヒトに対して使用される例の多い顔認証システムを豚に応用した事例を紹介します。
高新興科技集団の開発した牧畜巡回点検ロボットは、養豚場環境をリアルタイムに検査し、豚の自動検温・集計と解析から体調管理、発情状況まで自動でチェックします。

本システムの特殊な点は、一般的に耳タグを確認して個体を識別、体調管理を行うところ、顔認証により個体を識別できる点です。
ロボットを設置すれば、通過する豚を自動で認識するため、労働時間の削減が見込まれます。
また、動物に与える物理的な傷害も軽減でき、音声認識により咳や呼吸困難症状も把握できるため、健康な生育にも寄与しているといえるでしょう。

蒙牛乳業の例と同様にデータの蓄積が可能で、さらなるシステム精度の向上、質の高い肉の生産が見込まれます。

4.まとめ

日本、そして中国の酪農へのDXの取り組みを紹介しました。
労働時間・人的コストの削減が喫緊の課題となる酪農業は、IT技術の導入による大幅な効率化が見込まれる分野です。
また、日本で効果の高いシステムを構築すれば、海外へ売り込むことも期待できるため、海外に先んじて高い精度のシステムを開発することが求められます。

とはいえ、事例には学ぶ点も多く、酪農分野以外でもDXビジネスを考える場合、海外の先進事例を研究することも求められます。
本記事でDXに興味を抱いたら、ぜひIngDanAcademyの動画コンテンツを視聴してDXの先進事例を研究してみてください。

記事監修者
数年前、アジアのシリコンバレーと呼ばれる深センでは、日本企業が深セン企業を視察するブームが起こっていました。その時、私は同時通訳として、日本企業視察団の人たちと一緒に様々なスタートアップや起業事例に触れる機会に恵まれました。大手日系企業で働く中で、数々の企業の創新創業のパワーに感動して、深センに進出。現在は、IngDanアカデミー編集長として、深センを拠点に、中国パートナー企業の開拓・関係強化、調査やリサーチ、最新DX情報の発信を行っています。

聂 宏静(Nie Hongjing)
IngDanアカデミー編集長

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