医療分野でのDX事例~ITテクノロジーと医療分野の融合~

2022年1月10日

DX(デジタルトランスフォーメーション)を行うことで、現在のビジネスモデルを変革し、より低コストで高効率なビジネスに移行できる可能性があります。
近年DXが話題に上り騒がれるようになったのは、経済産業省が以下の3点を指摘したためです。

・既存のシステムの複雑化によるビジネスモデルの固着
・システムの維持管理費高騰
・事業部ごとに異なるデータ管理による機会損失

これらの問題が2025年から2030年にかけて表出化し、推定で12兆円もの損失が計上されると経済産業省が警鐘を鳴らしています。

しかし、DXを求められても具体的にどのように施策すべきか迷う経営者も少なくないでしょう。
そこで海外で行われたDXの事例を紹介しますので、経営方針の参考にしてみてください。
今回は医療分野で先進的なDXを推し進める中国深センの例に学びましょう。

1.医療分野に導入されるITテクノロジー

医療分野でのDXの導入は日本でも議論に上がることがあります。
少子高齢化の進行により、若い医療従事者の減少は確実視され、特に中山間地域や島しょ部の医療現場は困難な状況に立たされています。

この地域は現実的に医療従事者を増やすことが難しいので、医療現場での業務を効率化し、より少ない人数で医療を行えるよう改善することが求められます。
ここで活躍が期待されるのがDXです。

今回のコロナ騒動で、医療機関から保健所への連絡手段としてFAXが用いられ、現場の医療関係者に負担がかかっていたことは記憶に新しいでしょう。
日常の医療活動も紙ベースで管理されていることも多く、データの利活用や保存方法について非効率的な方法が用いられていることは間違いありません。

DXで先駆する海外では医療現場でITテクノロジーをどのような形で利用しているのでしょうか。
各分野で先進的な事例を多く持つ中国・深センの事例を取り上げてみましょう。

2.自宅で診察を受けられる「オンライン診療」

中国・深センに本拠を置く平安保険は、医療行為とITテクノロジーを組み合わせた「平安グッド・ドクター」を提供しています。
本サービスは1回あたり300円ほどの金額で20分の診察を受けることができます。

オンラインでの診察が終わったあと、処方箋の発行、オンライン決済、薬の配送まで在宅でサービスを受けることができ、完全に自宅にいながら診療行為を完結させることが可能です。
2020年時点でアクティブユーザ数は6000万人を超え、中国で最も人気の高いオンライン診療アプリになっています。

コロナ禍で、病院に行くと感染させられる心配、感染させてしまう心配を抱える人にとって、自宅にいながら医師の診察を受けることができるのは大きなメリットです。

また、過疎化が進行する地域で病院へ行くことが負担となる高齢者世帯にとって、オンライン診療には期待がかかります。
利用者側だけでなく、現在回診を行っている医療関係者にとっても、病院にいながら患者に向き合える体制が整えば、移動時間を短縮でき労力を減らせる可能性があります。

医療行為の手間が軽減できるメリット以上に、オンライン診療により受診回数が増え、医師と患者のコミュニケーションが活性化することで、医師は早期に異変を感じ取ることができ、命に関わる病気の早期発見に繋がることにもなります。

中国で一般化するオンライン診療ですが、今後日本でも導入が進むことが予想されています。
先進事例を参考にすることで、より効率的に取り入れることができるでしょう。

3.5G技術の享受で低遅延「遠隔手術」

5Gの技術を用いて遠隔手術を行う試みもとられています。
深セン市は5G通信技術が全市を覆っていることでも知られていますが、深セン市と北京市を結んで遠隔手術が実施されました。

術前のカンファレンスから執刀に至るまで、深センと北京の医療チームが連携して患者2人の手術に成功しています。
この手術で用いられたのはMR(複合現実)という技術で、現実空間とVR(仮想現実)の座標を高精度で重ね合わせるAR(拡張現実)とVRの中間をイメージしたものです。
遠隔手術を行うにあたって最も重要なことは、2つの医療チーム間でコミュニケーションに遅れが生じないことです。
手術の時間を短くすることが患者の体力低下を抑え、手術後のダメージを軽減することにつながるからです。

幸い、画像や音声の遅延や切断といった不具合は生じることなく手術は完了しています。
無事に手術が完了した理由に、低遅延がメリットである5G通信がよい影響を及ぼしたことは間違いないでしょう。

遠隔手術は日本においても重要な技術になっていきます。
医療関係者が減少する中で、手術できる医師の数が減少することは確実です。
特に、高度で専門的な手術ができる医師は都市部に集中することも予想され、遠隔手術が一般化することで専門性の高い医師が都市から移動せずに執刀することが可能になるかもしれません。

参考:北京・深圳間で「遠隔手術」が成功
https://36kr.jp/22429/

4.まとめ

ITテクノロジーと他業種が連携するDX、医療分野の事例を紹介しました。

オンライン診療、遠隔手術、これらは人口が減少していく日本にとって不可欠な技術ですが、まだ一般的に利用できる技術ではありません。
海外で成功事例が散見されるため、技術的には既に実用化できるレベルに達しているといえるでしょう。

一方で、日本においては導入事例が不足していることが普及しない一番の原因です。
海外の事例に学びながら、日本でも実績を重ねて医療分野でのDXを起こしていくことがこれからの医療現場を救うことに繋がるでしょう。

今回紹介したオンライン診療、遠隔手術に限らず多様な分野でDXは期待されます。
他業種と連携してDXを達成できる可能性があることを認識して活動すべきです。
DXを検討するにあたって既存の事例に学ぶ点は多く、可能な限り多くの事例をリサーチすることが成功への近道といえます。
IngDanAcademyでは、中国深センの豊富なDX事例を写真・動画でお伝えしています。
多様なコンテンツからDX達成の端緒をつかんでみてください。

記事監修者
数年前、アジアのシリコンバレーと呼ばれる深センでは、日本企業が深セン企業を視察するブームが起こっていました。その時、私は同時通訳として、日本企業視察団の人たちと一緒に様々なスタートアップや起業事例に触れる機会に恵まれました。大手日系企業で働く中で、数々の企業の創新創業のパワーに感動して、深センに進出。現在は、IngDanアカデミー編集長として、深センを拠点に、中国パートナー企業の開拓・関係強化、調査やリサーチ、最新DX情報の発信を行っています。

聂 宏静(Nie Hongjing)
IngDanアカデミー編集長

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