中国でのDX事例「医療・公共分野」上海の事例

2021年11月15日

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、ITテクノロジーを用いて既存のシステムを効率的に作り変える仕組みです。
対面式授業の映像化配信を行う学習塾企業、ビッグデータを活用して効率的な販売を可能としたECサービスなど、DXは仕事・私生活の様々な場面で利用されるようになりました。
一方で日本では医療・自治体などの分野でDX変革の事例が少なく感じられます。
今回はどちらの分野でもDXが実用レベルで運用されている中国・上海の事例を確認してみましょう。

1.世界人工知能大会2021

2021年7月8日、中国上海の上海万博センターで「世界人工知能大会2021」が開催されました。上海では4年連続の開催となり、今年度はAIに関連する企業300社以上が出展しました。

ファーウェイの輪番会長の胡厚崑(ケン・フー)氏は大会のスピーチで、「過去のAI技術はキラキラとしたものを感じさせたが、今年は同じようにキラキラしたものは見られない。AI技術は一般に知られ、業界の中での応用もされ目新しいものでなくなったためだろう。AIは有形から無形に変わり、業界を変革する力になっている。」と語りました。

実際、AIは産業界はもとより、スマートフォンの音声アシスタントやロボット掃除機など私生活の中に入り込み、身近なものとなっています。
私生活に直結する医療分野や公共サービスにおける中国のDXとはどのようなものでしょうか。

2.上海でのDX事例と医療分野での事例

医療分野でのDX事例として、上海市の「復旦大学付属中山徐匯雲(クラウド)病院」を紹介します。

徐匯雲病院は2020年2月に、公立病院として中国で初めてオンライン専門病院として認可されました。
病院での受診方法は以下の流れです。

・スマートフォンで徐匯雲病院のアプリから「診断する」をタップ
・利用可能な医師の対応状況、専門分野の表示
・対象の医師を選択し、ビデオチャットを接続、問診
・処方薬は自宅に郵送か指定薬局での受け取りを選択
・支払いはオンライン決済

受診から処方箋の受け取り、決済に至るまでをすべてオンライン上で完結することができます。
現在は主に生活習慣病とコロナの診断が選択可能となっており、受診時に人と対面することがないので、安心して医師と会話することが可能です。

オンラインでの診療が一般化すると、オンライン診療を支えるインフラの整備や遠隔医療に対応した医療器具が求められ、新たな市場の開拓につながります。
日本においても、中山間地域や島しょ部での医療体制確保は喫緊の課題になっています。
先行してオンライン診療を推し進める中国に学ぶ点は多いでしょう。

参考:上海市のオンライン診療専門病院について
https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200526

3.上海でのDX事例と公共サービスでの事例

公共サービスの分野では、上海市のスマート水道メーターの例を紹介します。

中国でも日本と同様に、一人で暮らす高齢者の孤独問題が取り上げられます。
戸別訪問での見回り活動にも限界があり、孤独死は増加の一途を辿ります。

上海市では一人暮らしの高齢者の居宅にスマート水道メーターを設置し、高齢者の水道利用状況を24時間体制でモニタリングしています。
12時間以内の水道使用量が0.01立方メートル以下になるとシステムが作動し、居住区のボランティアに通知され、即時に訪問する体制が整えられています。一人暮らしの高齢者が安心して過ごす街づくりをデジタルの力で提供する一事例と言えるでしょう。

また、本事例はDXがデジタル機器に対応できる人に限らず、機器を使用できない人にもメリットがあることを示しています。
一般的にDXをはじめITテクノロジーは、使用する側にもデジタル機器への適応を求めますが、機器を使用できない人もDXを提供する対象になることで市場規模の拡大にもつながることでしょう。

参考:上海市のスマート水道メーターについて
https://www.afpbb.com/articles/-/3321060

4.まとめ

中国でのDXの事例として医療・公共サービス分野の事例を紹介しました。
今回の事例はDXが私生活の中に入り込み、身近なものとなっていることを示しています。
さらに、既存のインフラを活用し比較的安価にDXが達成できる可能性を示唆しています。
徐匯雲病院の事例でも、水道局の事例でも、元のインフラ設備に変更を加えず、システム上、またはインフラの一部を改修することで目的を達成しています。

日本では既存のシステムや設備がレガシー(過去からの遺産)としてDX化を阻んでいると言われています。
今回紹介した事例のように、既存のインフラを利用することで効率化を図る道を研究することも日本のデジタル化に必要な要素となりそうです。

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既存のインフラを活かしながらDXを達成するヒントを探している方はコンテンツを見てみてください。

記事監修者
数年前、アジアのシリコンバレーと呼ばれる深センでは、日本企業が深セン企業を視察するブームが起こっていました。その時、私は同時通訳として、日本企業視察団の人たちと一緒に様々なスタートアップや起業事例に触れる機会に恵まれました。大手日系企業で働く中で、数々の企業の創新創業のパワーに感動して、深センに進出。現在は、IngDanアカデミー編集長として、深センを拠点に、中国パートナー企業の開拓・関係強化、調査やリサーチ、最新DX情報の発信を行っています。

聂 宏静(Nie Hongjing)
IngDanアカデミー編集長

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